伊藤計劃作品の関連作としてのヴォグ・ランバ

おかげさまで勇者ヴォグ・ランバ1巻が発売されました。最終回はあさって25日のアフタヌーンに掲載です。すでに2巻用の作業も済みまして、おそらくちゃんと2/22に発売されます。

たぶん、ネットでは伊藤計劃さんとからめて言及していただくケースが多いだろうと思いまして、それを読まれて「伊藤計劃関連なら買おうかな、どうしようかな」と迷われた方に参考になるような記事を書きます。*1

テーマは近いです。

下は2巻の内容ですが、ファンの方ならピンとくるんじゃないでしょうか。

でもテイストは違います。

最初のほうではミリタリー要素も濃いのですが、のっけから軍用車両が馬匹牽引ですし

あとはどんどん……独特な感じになっていきます。伊藤計劃さんのあの格好いいかんじを期待されるとキビしいです。もっとなんというか……ハードSFではなく思考実験的で漫画的で……独特な感じです。2巻では多少マシになりますが、新人なのにいきなり絵がうまいというタイプでもありません。万全の体勢で、決して無理をせず、違う山に登るようなつもりでお読みください。


作品スタンスは「ハーモニー」で示された結末に挑戦する形になっています。まあアンチテーゼと言えばアンチテーゼなのですが、伊藤計劃さんはあのシステムや結末に対して良いとも悪いとも断じていなくて、私はただ純粋にばっさりと「世界を壊してみせた」のだと解釈しています。だからこそ創造的で、後の者の意欲をかき立てるのだと思います。

私が伊藤計劃さんという小説家を知ったとき、彼はすでに故人でした。私と同年代で、同時期に武蔵野美術大学に在籍していて(私はドロップアウト漫研に入る甲斐性もありませんでしたが)、同じはてなダイアリーを使っていて(id:Projectitohさん)、SFを書いている。しかも現代の自分たちを強く意識した物語を描く作風が似ていると思いました。圧倒的にすごい方なので、私がこう言うのはおこがましいのですが、生まれてはじめて強く「親近感」を感じた人でした。私はうすらぼんやりですし、性格はまったく違うと思いますが、なんだか他人とは思えないなと言う感覚を抱いたのはこの方が初めてだったのです。

ですからこれはまったく私の勝手な思い込みの感覚ではありますが、ヴォグ・ランバの後書きに際して、伊藤さんに対して敬愛の念を表するとか、作品に強く感銘を受けたといった言葉を並べる必要はなく、ただ「伊藤計劃作品に影響を受けた」とリファレンス的に書けばよいと思いました。それでよしとしていただけると思っています。

伊藤さんご本人に対しましては、いろいろ描かせていただきました、どうも過去にリファを送れなくてすみません、という気持ちです。

*1:注:画像は私の持っている作画時のデータなので単行本の通りではありません

来月号で終わります

今月のアフタヌーン勇者ヴォグ・ランバに「次回 1/25(金)発売 ついに最終話!?」と書いてあるんですけど、たしかについに最終話です。
この「最終話!?」の「!?」は私のページ数読みがヘタなので、ちゃんと次号で最終話にできるか不確定だったから編集さんが気を利かせてくれたんだと思います。もう次号のネームが通っているので、私がちゃんと描けば次回で終わりです。
まあ謝るのも変な話なんですけども、もっと続くと期待してくださっていた方にはすみません。ほぼ構想通りで、思ったよりページ数が多くなって連載を伸ばしてもらったくらいでして、こういう話だったんです。
具の多いもやしそばだと思って食べていたら、どんぶりの底までもやしだった、みたいな状況に似た感想を抱く方もいらっしゃるかもしれませんね。もしよろしければ単行本で、最初からもやしあんかけだと思って食べ直していただけたら幸いです。気の利いたことも言えませんが、では良いお年を……。

新作のタイトル

(仮)だった新作タイトルですが、「勇者ヴォグ・ランバ」に決まりました。

これは「アシタカ聶記」が「もののけ姫」になったくらい…かは分かりませんが、私の考えにしてはいいタイトルになったと思います。

初回掲載となる、中島守男先生が帰ってきて四季賞ポータブルもついてくるアフタヌーン2012年1月号はあさって25日発売です。よろしければご覧下さい。

新作のお知らせ

来月からアフタヌーンさんで、少し長めの話を載せて頂けることになりました。しばらく連載されます。

私は作品が載る前っていうのはもう、いろいろと言い訳したい気持ちでいっぱいなんですけども、特に他で宣伝してくれる所もないので、ちょっと良さそうなことを書きますね。


ええとですね、「ヴォグ・ランバの体制(仮タイトル)」ってことになってるんですけども、編集さんから「体制っていうワードがぜんぜん売れそうな気がしないんですよね…」と言われてまして、もうちょっとギリギリまで良いタイトル案を考える予定です。私ネーミングセンス自信ないんですよね…。

テーマはですね、読み切りで「男性」「人生」「科学と宗教」ときて今回は「政治体制」についてなんですけども、まあ、ヴォグ・ランバ君ていう青年が世界の危機に立ち向かって大活躍する冒険活劇だと思って頂ければ大筋間違いないです。期待してたのはそういうのじゃなかったなーという方、すみません。

SFっていうくくりになると思うんですけども、ハードSFではないです。ドラゴンボールがSFならSFかなーっていうぐらいの、エヴァなんかもそうだと思いますが「現代風異世界ファンタジー」です。もしハードSFを期待されていたら、本当にすみません。

ストーリーはけっこうシリアスです。シリアスで登場人物はみんな必死なんですけども、なにぶん異世界の話ですので、ふんふんなるほどねという感じで、まったりとお楽しみいただければ幸いです。

このブログをチェックしてくださり私の新作をすごく楽しみにしていただいている方はですね、雑誌購入後ぜひまっさきに読んでいただけるとですね、期待はずれだった場合に、まだ他の漫画も残っているということで、特に「おおきく振りかぶって」が連載再開ということですし、ショックも和らぐのではないかと思います。


もう絶対うまく宣伝できる気がしないのでやめますけども、気が向いたらご覧になってみてください。よろしくお願いいたします。

感情の社会化

私がここ数年で強く印象に残ったニュースに「小女子予告事件」がありました。わざわざ掘り起こすのも関係者に気の毒なぐらいの小さい事件なんですが。

私もとくに深い情報を知っているわけではありませんし、特にこの犯人を擁護する気もありませんから、以下は憶測をまじえた一般論とさせて頂きますけども……もし私が「小女子を焼き殺す」というスレを立てた人間でしたら、それで刑が軽くなるかどうかはともかく、この犯人よりもいっぱい法廷で弁明すると思うのです。

「私は一部の正義を気取った遊び半分の通報者の跋扈を愛国的な観点から憂えていた」「私の動機は殺人予告でないとわかる状況をふまえてもなお殺人予告として通報する人々に対する風刺だった」「小学校をおびやかした真犯人は、本当は殺害予告を心配していないのにあたかもその蓋然性が高いかのように通報した、遵法性を軽んじた通報者である」「私が警察に期待した対応は、見ればすぐに殺害予告ですらないとわかる文面をもって騒ぎを起こす通報者に対して、道徳的で冷静な対応を諭すことであったが、義憤に端を発した私の行動がこのような誤解を招き、真に残念だ」…とかなんとか。

この犯人が、通報者か警察に対して何かしらの反感を抱いていたことは想像に難くありません。でしたらもう捕まっちゃってるわけですから、その思う所を公にしなければ、腹の虫がおさまらないじゃないですか。

でもこの犯人は(犯行の)目的はない*として心境は語らなかったのです。弁護側が周囲が本気でないと判断すると安易に考え、書き込んだ。と言っているので、いたずらだと認めるから減刑してほしいという作戦だったのでしょう。その結果、警察に捕まるか捕まらないかきわどい文章で勝負し、掲示板の反響が見たいという動機は身勝手。*というストーリーで断罪されます。まあ本当にそうだったのかもしれませんけども、私は被告が退廷時に悔し涙をあくびでごまかしたという説をとります。

いろいろ考えられますけど、私にはこの犯人、最後まで誰にも自分の心を表現できなかったように見えるんです。もし動機から紐解いて弁明すれば、「小女子(こうなご)は魚のこと」という言語上の常識を主張するよりも真実に近づけたんじゃないでしょうか。私はこの状況で彼が心を閉ざした事が重苦しく感じられます。ちょっとダンサー・イン・ザ・ダークという映画も連想しますけども、本心にある問題を表に出せない状況はある種の地獄だと思います。そして、この社会に本心を明かす価値はないと被告に絶望されたような気もいたします。

あなたの問題も社会の問題です

人はべつに大災害などなくても、自分の問題をうまく社会化できない(人と共有して対処できない)閉塞に陥ります。しかもご承知のように、いま心を重くする出来事が山のように起きております。困っている方を助けようとする方々にもお疲れがあるでしょう。それを遠くから心配する方、さまざまな余波で困っている方も平常とは違うと思います。

直接被災された多くの方は現在、なんとか前向きになって進もうとされているでしょう。まだ暖房とか、食事とか、回りの人々との交流とか、とにかく気力をはげますものを少しずつ蓄積しながら回復されるしかない時期ではないかと想像します。

この記事を読まれる方の多くは、ほぼ被害がなかったか、だいぶ落ち着いた方々だと思います。ですがそれでも、まだうまく人に伝えられていない苦しい思いがあるかもしれません。いわゆる「被災者」でなくても、いつのまにか苦しみはたまります。そしてお近くの方にお話されれば親身に聞いてくれると思いますが、もしもここで私がお話を伺う事でお役に立てれば、こちらにコメントをください。


要するに「一緒にがんばりましょう」ということを回りくどく言っているだけですが、理屈っぽいほうが伝わる場合もあるかと思いまして…。日銀は震災後、経済の下振れ防止のために金融緩和を行っていますが、人に悩みを打ち明ける基準のほうも、この状況では全国でジャブジャブに緩和されてよいのではないか、などと思っております。

(3/28 一部修正)

私の心境報告は分けとこう

普段は天災が起きても募金をしたりしなかったり程度の私ですが、今回は宮城に叔母と従兄弟がおりまして、一週間ほど安否を気づかっていました。従兄弟には妻と娘がおり、あの時間ならみなバラバラに津波に遭ったはずだと、誰かが助からなかったすべてのパターンを思い浮かべては気を揉んでいました。幸い全員無事との一報が親戚から届きまして、まだ続報を送ってこれないような状況下ではあると思いますが、まずは胸をなでおろしております。

同時に、私が思いめぐらせた悲劇に見舞われた多くの多くの皆様に、心よりお悔やみ申し上げます。まだ決定的な情報が入らず落ち着けない状況の皆様には、一日も早く吉報が訪れますよう、お祈り申し上げます。

当分何もないお知らせ

7月から取り組んでいたコメディ読み切りの企画がボツになりました。
期待くださってる方には申し訳ないのですが、新作は当分先になります。

去年の冬にもそういう時期がありました。

雑誌をご購読頂いている皆さんはネーム段階をご覧になっていないので、私と連載されるような作家さんとの実力差が分かりにくいかもしれませんが、やはりまだコンスタントに掲載レベルのものを作れる力がないのです。

こういう記事タイトルになってしまいましたし客観的に見て私はちょっと心配な人なんじゃないかと思うのですが、作品は描いておりますし、商業作品を作る目標の中で勉強はしておりますので、いったん忘れてお待ち頂ければ幸いです。

メールはこちらまで: sugio0089@yahoo.co.jp